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column

2026/08/14

水が引いたあとに待っているもの

ニュースでご覧になった方も多いと思いますが、千葉で線状降水帯が発生しました。

浸水した家に行くと、施主さんはたいてい床を拭いています。気持ちはよく分かります。目の前の水を取りたい。片付けたい。少しでも元に戻したい。でも、拭いてもあまり意味がありません。家の被害は、見えている場所には出ないからです。

 

私は洪水被害の復旧工事を何度も経験しました。
そのとき現場で覚えたことが3つあります。

一つ。断熱材は乾きません。
壁の中に入っている繊維系の断熱材が水を吸うと、自然には抜けません。扇風機を回しても、窓を開けても、壁の内側までは届かない。抜くには剥がすしかない。しかも表面が乾いたから大丈夫だと思ってしまうのは間違い。半年後、その壁の内側が黒くなってくる。

二つ。泥は水よりタチが悪い。
床下に入ってきたのは水ではなく、実は泥水です。水は引いていきますが、泥は残ります。基礎の隅、配管まわり、束石の陰。人が潜って掻き出すしかありません。乾いた泥は粉になって舞います。人が潜って取り除かない限り、そこにあり続けます。

三つ。カビは遅れてやってくる。
数週間後、あるいは翌年の梅雨に出ます。断熱材のように、そのとき乾いたと思っていても狭いすき間に入り込んだ水は、なかなか乾きません。乾かないということは空気の通りも良くない部分。そうした部分には水分がカビに姿を変えます。

床と壁に気を取られて、実は後回しになるものがあります。
それはエアコンの室外機です。
水に浸かっってしまった室外機は、電源を入れてはいけません。

メーカーサイトにも水害時の対策が書いてあります。
乾いたように見えても内部が乾いていなかったり、流れてきた異物が付着していて漏電や発火のおそれがあるため、一時的に使える状態でも絶対に通電せず点検を受けるよう案内しています。浸水が浅くても同じで、泥や砂が入り込めばモーターに不具合が出たり、分電盤のブレーカーを切って点検を依頼するよう求めています。動くかどうか試さない。泥を水で流さない。素手でフィンに触らない。

一番怖いのは、その場で動いてしまうことです。
動いたから大丈夫だと判断して使い続け、数週間後に発煙したことがありました。内部に残った泥が原因でした。この暑い時期に使うなというのは酷な話です。それでも、感電と発火の二択より、数日の暑さのほうがマシです。

 

普段住んでいる家の断熱材も、配管も、床下も、電気も、全部見えないように隠れています。見なくていいように仕上げるのが私たちの仕事です。その隠れた部分がどうなっているかを知っているのは、建てた人間だけです。だから水が出たとき、真っ先に呼ばれるべきなのは工務店です。壁のどこに何が入っているか、配管がどう通っているか、床下の高さがいくつか。図面ではなく、自分の手で入れたから分かる。

台風でも、豪雨でも、地震でも、何かあったとき、電話をかけられる建築屋が一人いるかどうか。
家を建てるというのは、そういう関係を持つことでもあります。引渡しで終わりではない。10年後、20年後に何かあったとき、家の見えない部分に何が入っているかを知っている人間がいる。その価値は、建てるときにはまだ分かりません。

千葉では今夜も雨が続く予報です。
被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。