2025/09/06
「サービスでお願いできます?」にモヤっとする理由
WEBで同じような記事を見かけて、私も思うところがあったので書きます。
私も今は営業ですが、若いころは大工として現場で働いていました。営業・現場問わず、お客様からのあるあるとして必ず出てくるのが「ついでにサービスしてもらえませんか?」という一言。
「ここに余った材料でいいので棚を付けてくれません?」
「軒天もちゃちゃっとベニヤかなんかで補修してほしいけど、サービスでいけます?」
「廃材を捨てるんだったら、この庭の植木鉢も一緒に処分して」……。
言った側は軽い気持ちというのは重々承知しています。
でも、言われた側の職人や現場にとっては、とても気持ちが重くなる一言なんです。
まず大前提として、サービスとは売り手(つくり手)が自分の意思でそっと添える心づかいのことだと私は考えています。
買い手から「それ、サービスで」と要求されるものではありません。プロが無償で何かをするというのは、責任の置き場所を曖昧にし、保証の線引きを崩し、見積り金額の整合性も壊します。
無料でやった工事は、何かあっても責任を取りづらいのが本音。そしてそれは結局、お客様のためにもならないのです。
現場には流れがあります。
同じ工程の延長で、手を止めずに安全にできる範囲(例:床張りの最中に、同じ材料で少し延長するなど)は、時間や材料の余力があればお引き受けできることもあります。
一方で、別工程・別材料の手配が必要な作業(前述の例:棚の新規造作、軒天の貼り替え、重量物の撤去や処分)は、段取り・発注・運搬・処分費・労務リスクが伴う「新しい工事」です。
ここは有償として正式にお見積りするのが、公正で安全なやり方です。
無償作業が当たり前になると、現場の時間配分は崩れ、人員の余力が削られ、結果として本来の工事の品質や安全にしわ寄せが来ます。さらに、あるお客様には無償で対応し、別のお客様にはしない…という不公平も生まれます。
値引き交渉も同じ。工事後に「端数、切っといてよ」は、実質的にサービス工事を強いるのと同義です。
きちんと対価をお支払いいただくことは、職人の生活を支えるだけでなく、仕事の質と責任を守ることにつながります。
参考までにお互い気持ちよく進めるためのコツを書きます。(お客様へ)
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事前相談:「ついでに」になりそうなことほど、早めにご相談ください。工程に組み込めればコストも下げられます。
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費用の確認:小さな追加でも材料手配や段取りが発生します。概算だけでもいくらかかるか?を先に確認しましょう。
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感謝を言葉に:職人にとってサービスの対価は「ありがとう」の一言です。労いは明日へのエネルギーになります。
私は、「サービスは見返りを求めない心づかい」と考えています。
頼まれていないけれど現場がきれいに仕上がるひと手間、作業内で気づいた改善できる変更など、そんなこちら側のサービスは大切にします。一方で、ご依頼として発生する追加工事はきちんとお見積り。責任の所在を明確にし、品質と安全を守ります。
スーパーで買い物をしてレジで「これ、サービスでニンジン一本追加でください」とは言いませんよね?たまたまキャンペーンで景品がついたり、ポイントがついたりするのが「売り手の心づかい」。
レストランで食後に「デザートをサービスしてください」とは頼みませんよね?シェフやお店側が「今日は特別にどうぞ」と出してくれるからこそ、提供される側は嬉しいのです。
家づくりもリフォームも、人と人の仕事です。
だからこそ、線引きをはっきりさせつつ、互いへのリスペクトを忘れない。
軽い「ついでに」の一言は、サラリーマンに無償で残業やってくれと言っているのと同じことを理解してください。
正しい対価とあたたかな感謝で、いい現場・いい関係を一緒につくっていきましょう。
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